Interview COLORFUL LOUNGE guest / print creator Akiyoshi Yaezawa ゲストのプロフィール

COLOR & CREATION

染色家からプリントクリエーターへ転身したワケ〜[前編] デジタル染色の世界とは〜

プリントクリエイター八重沢晃祥(やえざわ・あきよし)さんは、独自にカスタマイズしたインクジェットプリンターと染料を使って、舞台衣装、服飾雑貨、アパレル、インテリアなど、さまざまな分野のプリントテキスタイルを製作している。新しい染色表現にチャレンジしている八重沢さんに、ご自身の想いを語っていただいた。2回に分けてそのお話を紹介する。(前編)

デジタルによる染色とは?

便利なデジタルツールができて、PC画面上ではいろいろできても、ものづくりにおいては、アナログ時代の知識やノウハウが基礎基本です。
便利なデジタルツールができて、PC画面上ではいろいろできても、ものづくりにおいては、アナログ時代の知識やノウハウが基礎基本です。

DIC(以下D):八重沢さんがインクジェットプリンターで染色を行うことになったのはいつごろからなのですか?
八重沢(以下Y):6〜7年前です。出発は友禅染で、その時に染色の基礎知識を学び、その後スクリーン捺染に転向、そして今がインクジェット。かれこれ染色の世界に15年近くになります。

D:インクジェットプリンターで行う染色と伝統的な染色とではどんな違いがあるのでしょうか?
Y:インクジェットで染色をするためには2方向の知識が必要だと思います。まずは染色の基礎知識。もう一つがパソコン系の知識です。いま、日本の染色工場は、高齢化が進み、なかなか若い世代の人が入ってこない。そうなると、いくらハードメーカーが「これからはこれですよ」といっても、メールのやり方もわからないというレベルのパソコンスキルでは馴染めない、逆にパソコンに強いからどうなのかというと、やはり染色の基礎知識がないと駄目なんです。

D:伝統的な染色とは、全然違いますよね。デジタルですし。八重沢さんは、デジタル染色という、これまでとは違う方式で、デジタル染色らしさを味わいとして出されようとしているのか、それとも、従来的な味わいをデジタルという工程で実現しようとしているのですか?
Y:PCによる色柄づくりやプリンターによる出力作業という、私の工房だけの工程を見るとデジタルなんですけど、テキスタイルとして仕上げるまでには、プリントした後に、蒸したり洗ったりという工程が入るんですよ。だから、基本的には昔ながらの染色とあまり変わらないんです。大きな違いということでは、版をつくりますとか、捺染しますというところがデジタル化されたという点です。

D:工程としてはあまり変わってない?
Y:そうなんです。ここでプリンターでプリントして終わりましたということではなくて、特に昔ながらの染色で重要な「蒸す」という工程が存在しています。
ところが、このデジタル化された部分は、従来の染色技法に対して、革命的に表現の自由度を広げました。例えば、柄や色の微調整が容易にPC上で可能になり、スクリーン捺染ではできなかった長いサイズの大きな柄もつなぎ目なしでプリントすることができるようになりました。

デジタル化した染色技法によって、表現の幅が格段に広がりました。
デジタル化した染色技法によって、表現の幅が格段に広がりました。

6色による色再現

D:色の再現性という点では、違いがあるのですか?
Y:色に対しては、友禅染時代から何年もかけて培ってきた自分なりの尺度みたいなものがあるんですよ。何回もやっているうちに、いろいろな設定に一手間加えたりとか、自分なりの工夫をして、デジタルだからこそ可能な表現の領域を日々探究しています。

D:後処理、例えばどういうふうに洗ったり、温度を調整したりとかすると全然風合いが変わるのですか?どんなふうに変わるのですか?
Y:まず、後処理をすると彩度が上がります。今より鮮やかになる。発色するってことです。もう一つ。プリントした段階だと、色が生地に定着していないんですよ。だから、ちょっと汗でも垂らすとボワッと滲んじゃいます。プリントした後の、蒸すという工程が染料にエネルギーを吹き込み、深みのある鮮やかな色を誕生させるんです。

D:思うのですが、染色家の方は、染料そのものに対しても、染み込み具合の違いだとかそういうことがあって、すごくこだわって選んでいる気がしています。その違いを染料メーカーもすごく研究している気がしています。実際のところ、そうした違いっていうのはあるのですか?
Y:染料そのものはあまり変わらないんじゃないかな?友禅染をやっていた時の話ですが、昔ながらの何とか商店みたいな材料屋さんが頻繁に新しい染料の紹介に来てくれていたのですが、そこのお店のオリジナルの缶に入っていても、中身はやはりドイツのメジャーな染料会社のものでした。

D:そうなんですか。中身は同じなんですね。
Y:草木染めとかの世界までいかないと変わらないんじゃないかな。
D:では、使っている染料そのものはあまり変わらないけれど、どう工夫して使用するかというところに色の違いがでてくるんですね。
Y:まさにそうです。ところが最近は低価格のいろいろなサードパーティインクが出回っていて、僕も使ったりしたこともありました。でも安定性がないんですね。今は6色の掛け合わせで色の指定をしているのですが、サードパーティーのインキを使うと色が転んじゃうことが多いんです。やはり安定したインキを使わないと、いくらデータ上で工夫しても思ったイメージにならないんです。
6色というのは、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色に、ライトマゼンタとライトシアンを加えた6色です。テキスタイルの場合、とてもデリケートな淡色や、グラデーションの表現が多いので、そういうときにライトマゼンタとライトシアンが効いてきますね。
D:そういえば、6色の掛け合わせで色を表現する方法は、従来の染め物の世界ではなかったことですよね。絵付けするにしても掛け合わせによる方法じゃないですよね。
Y:着物の色をつくっているときは30ぐらいの色を使っていました。この内の数色を組み合わせて色を表現していましたね。(後編に続く

CMYKの4原色に、色再現の幅を広げる2色がプラスされている点は、家庭にある紙用のプリンターと同じ仕様です。
CMYKの4原色に、色再現の幅を広げる2色がプラスされている点は、家庭にある紙用のプリンターと同じ仕様です。
グラデーション表現はデジタル染色が得意とするところ。また、補完色のライトシアン、ライトマゼンタが真価を発揮するカラー表現でもあります。
グラデーション表現はデジタル染色が得意とするところ。また、補完色のライトシアン、ライトマゼンタが真価を発揮するカラー表現でもあります。

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