プリントクリエイター八重沢晃祥さんは、独自にカスタマイズしたインクジェットプリンターと染料を使って、舞台衣装、服飾雑貨、アパレル、インテリアなど、さまざまな分野のプリントテキスタイルを製作している。新しい染色表現にチャレンジしている八重沢さんに、ご自身の想いを語っていただいた。(後編)
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色が滲まないから、まるで刺繍のような柄の染色ができます。
DIC(以下D):掛け合わせによる色再現の場合、もともとはそれぞれの色がドットとして独立していて、その精緻な掛け合わせでフルカラーを表現しようとしているわけです。だから、色が滲んで混ざっちゃうと、意図した色になりません。紙にプリントする場合でも、紙のキメの細かさによってカラー表現に向く、向かないというのがあるのと同様に、布でもそういうことがあるわけですよね。基本的に布は紙に比べると、キメが粗いと思うので、紙とは比べものにならないほど、ドットが滲んでしまって、紙の印刷の掛け合わせとは具合が違うような気がするんです。
八重沢(以下Y):ですね。
僕が使っているプリンターは、もともと紙用のプリンターなんです。それを染色用にカスタマイズしています。そもそも紙用で考えられてきた製品ですから、布へのノウハウの蓄積がないんだと思います。
布は紙に比べれば暴れるし、重たいものも多い。だから、私の場合、巻き取り機とかは後から自分でつくりました。もともとの巻き取り機だと、デニムみたいな重く厚い生地は、10mぐらいプリントすると巻き取れなくなっちゃって。
D:生地の厚みってどのぐらいまで対応できるんですか?
Y:実質的には8号帆布くらいでまでですかね。トートバッグとかによく使われる布です。インクヘッドとメディアとの距離の物理的限界があります。
最初のころは大変でした。重い布、厚い布、伸びる布と、いろいろ種類がありますから。すごくテンションがかかって、伸びたまま印刷してしまい、仕上がった柄は縮んでいたりとか。
D:いろいろな布を試されたんですか?
Y:試しましたね。
例えば、これは僕がよく使っている生地屋さんの見本です。綿、麻素材の見本帳なんですけど、この素材だけでもこんなに種類があるんですよ。
D:紙の見本帳みたいですね。これは普通の生地屋さんとはちょっと違う、特殊な生地なんですか?それとも定番なんですか?
Y:業界では普通に流通しているものですね。いろいろな生地があるんですけど、やはりよく使う生地はある程度自然に絞られますね。
D:ポリエステルとかナイロンといった合繊素材は使わないのですか?キメが細かい素材のほうがプロセス印刷に向いていると思いますが。
Y:合繊を使うことはできますが、今のところ、僕は扱う素材を天然繊維に絞っています。ポリエステルなどのいわゆる化学繊維を専門にやっている人もいて、その辺は棲み分けされている感じですね。染料も違うし、蒸しとかの工程も違うのです。

布の見本帳。基本的に、白は、紙の印刷の場合同様、生地の色で表現します。

インクジェット染色で製作した布地ポスターは、エコロジカルなテイストを感じさせるデザイン表現にも活用できます。
Y:天然繊維に限定して染色をしているといいましたが、エコロジカルな方式であることもインクジェット染色に移った理由の一つなのです。
時代の大きな流れでいうと、大量に同じものをつくる対極で、ますます多品種少量生産の需要が増えています。スクリーン染色も小ロット対応に向いた方法ではあったのですが、インクジェット染色にはかないません。また版をつくるためには、溶剤を使いますし、ゴミも多くでます。さらに、従来型の染色工程では大量の汚水がでてしまいます。
もっとも、さっきお話ししたように、インクジェット染色にしても、今は一部がデジタルになっているだけです。全工程を考えると、蒸して、洗って、というところで汚水がでます。また現在の工程では、プリントする前に、生地に糊をつけています。糊があるから色が滲まないんです。だから、結局、3つの工程があるんです。糊をつける、プリントする、蒸して洗うと。
D:糊というのは固着剤ですね。だからプリントしたままの布はバリバリしているんですね。
Y:それを、後処理工場にもって行って、蒸して、80度ぐらいのお湯で洗うわけですが、その時にでる排水が、水性系ではありますが、普通に排水できないものになります。
D:その点が環境問題的に八重沢さんが気になるところなんですね。
Y:ここの工房までの工程では排水は出ないじゃないですか。プリンターのクリーニングをする時にバケツに入るぐらいの排水がでるだけで。ですから、一番できたらいいと僕が思うのは、前処理も、後処理もいらずの工程になって欲しいと。
もちろん、プリントのクオリティをキープした上で、ということになりますが、そこへ到達するには乗り越えなければならない課題が多く、DICのような色・素材のプロフェッショナルとの共同開発が必須だと感じます。いずれにしても、環境配慮へのさらなる取り組みは急務ですね。
D:環境保全は、すべての人が高い関心を抱いている社会問題です。プリントクリエーターとしてご活躍の八重沢さんの問題意識をうかがってとても共感しました。本日はありがとうございました。
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