色を味方につけるビジネスカラーコラム

視認性と景観調和を両立した
点字誘導ブロック「ルシダ®」の開発

購買意欲を高める色の決め方とは?カラーマーケティングで成功する配色の秘訣

視覚障がい者用点字誘導ブロック「ルシダ®
左:クールイエロー(画像提供:LIXIL)
右:ウォームイエロー(画像提供:大光ルート産業)

視覚障がい者用点字誘導ブロック「ルシダ®」は、東京大学においてユニバーサルデザイン推進室のアドバイザーであった伊藤啓氏(東京大学客員教授、ケルン大学教授)を中心に、誘導ブロックを製造しているメーカー各社とDICカラーデザイン株式会社、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構が産学連携で共同開発した製品です。視認性と景観調和の両立を目指して開発された「ウォームイエロー」「クールイエロー」の2色が、2018年に各社から発売され、現在では建築物や駅などを中心にさまざまな場所で設置が進んでいます。

1.誘導ブロックの「色」が抱える問題

街中や屋内で目にする視覚障がい者誘導用ブロック。これは原則的に、国土交通省が定める「視覚障害者誘導用ブロック設置指針」や「道路の移動円滑化整備ガイドライン」などに基づいて設置されています。設置箇所や形状、サイズ、色、周辺色との輝度比に関する項目が定められており、建築物や景観を造る際の基準とされます。しかし、色に関しては「黄色」という言葉のみで、どのような黄色かという具体的な色彩値に関する規定はありません。

鮮やかな黄色の誘導ブロック

鮮やかな黄色の誘導ブロック

同系色で景観に調和させた誘導ブロック

同系色で景観に調和させた誘導ブロック

左)ステンレスの鋲/右)装飾柄と一体化した誘導ブロック

左)ステンレスの鋲/右)装飾柄と一体化した誘導ブロック

そのため、建築家やデザイナーは鮮やかな黄色を避け、景観を邪魔しない周辺色に溶け込む色の誘導ブロックや、突起だけをステンレス製の鋲で作ったものなどが多用されています。周辺の色と馴染み過ぎる誘導ブロックは、視力の低いロービジョンの人にとっては視認しにくく、「誘導ブロック=黄色」という記号性が伝わらず、安全な誘導がなされないという問題があります。歩道の装飾模様や白線、路面の凹みや排水溝と見間違えやすいなど危険も伴います。

2.新しい「黄色」の誘導ブロックを目指して

歩行の安全性のためには、当事者やバリアフリー関係者から「黄色い誘導ブロック」の設置が求められます。そこで、当事者と建築家やデザイナー、両者のニーズを同時に満たす誘導ブロックを開発するプロジェクトが、2011年に東京大学のユニバーサルデザイン推進室のアドバイザーをしていた伊藤啓氏(当時:東京大学准教授、現:ケルン大学教授)によって開始されました。「黄色を使うか?使わないか?」の二者択一ではなく、実際には黄色といってもさまざまな色あいがあります。黄色の中でも誘導ブロックとしての視認性・記号性を確保しつつ、景観との調和も実現できる色の誘導ブロックを作れないか、試行錯誤を重ねていきました。

DICカラーデザインでは、景観調和を考慮したクールとウォームの2方向の色調で黄色のバリエーションを提案しました。一概に景観といっても、モダンでスタイリッシュなデザインもあれば、木造やレンガなどでできた温もりあるデザインもあります。プロジェクトの目的は、黄色でありながら建築空間に採用される誘導ブロックを作ることです。それらに対応するために、イメージの方向性が異なる、緑み方向のクールな黄色から赤み方向でウォームな黄色の候補色などを複数用意しました。

新しい「黄色」の誘導ブロックを目指して

また、景観調和のためのアイデアとして、まず初めにベースと突起部で色を変え、黄色の面積を少なくしたサンプルを中心に実験検証を始めました。黄色と合わせる色として、アスファルトに近い黒やグレー、落ち着いたブラウン系を設定。東京大学本郷キャンパス構内に実際に施工し、ロービジョンの人による比較評価や、さまざまな天候での視認性調査を行いました。その中で、2 色配色のブロックは眼の疾患の症状によっては突起の細い線にチラつきを感じるので避けて欲しいという意見や、耐久性の高い製法で作るブロックでは2色の塗り分けが難しいという技術的制約も確認されました。そこで以後の開発は評価の高かった淡い色調の黄色で全体を1色に統一する方向性の案に絞られました。

新しい「黄色」の誘導ブロックを目指して

東京大学本郷キャンパスでの実地検証

実地検証用の17色の試作サンプル

実地検証用の17色の試作サンプル

絞り込んだ候補色のブロックによる実地検証

絞り込んだ候補色のブロックによる実地検証

次に、淡い黄色の中でもどのような色あいが最も視認しやすいかを調べるため、明度や彩度、色相を変化させた 17 色の誘導ブロックを試作しました。これらのサンプルを暗い色の路面や明るい色の路面の上に置いたり、日なたと日陰、乾いた状態と濡れた状態で比較したりしながら、見分けやすさと景観との調和しやすさの比較評価を実施。4つの候補色に絞り込みました。これらの色を、コンクリート・セラミック・樹脂タイルの 3 つの材質で製作し、路面に敷設。太陽光や風雨による褪色や汚損などの経年変化の影響を見つつ、1年間の実地検証を行いました。

3.実地検証による視認性の確認

実地検証の結果、「周囲の路面との見分けやすさ」や「ブロックがどこにあるかの見つけやすさ」には、色あいによってかなり差がみられました。わずかに黄緑側に寄ったクールイエローと、わずかにオレンジ側に寄ったウォームイエローの 2 色の評価が高く、色みに片寄りがない黄色や白に近いアイボリーは評価が低い傾向でした。この結果は、ロービジョンの人の網膜の視細胞の特性から予測される色知覚の傾向とも一致しています。評価の高かった 2 色のブロックは、従来の鮮やかで濃い黄色のブロックと、ほぼ同等の視認性を示しました。特に昼間に比べて光が少ない夕暮れ時には、従来のブロックと同等以上の評価を得ています。こうして、黄色の記号性を持ちつつ、景観イメージの幅にも対応できるクールとウォームの2色が最終決定しました。

一般的な黄色い誘導ブロック/新規開発した誘導ブロック「ルシダ®」(クールイエロー/ウォームイエロー)

一般的な黄色い誘導ブロック/新規開発した誘導ブロック「ルシダ®
(クールイエロー/ウォームイエロー)

比較評価実験の結果

比較評価実験の結果

形状の工夫でユニバーサルなデザインに
車椅子やベビーカーに配慮した突起形状

車椅子やベビーカーに配慮した突起形状

ブロックの形についても、車椅子やベビーカー、キャリーバッグの通過のバリアになりにくく、足がつまずきにくいような突起の形状や突起の配置を工夫しました。角を丸くした突起や平坦部のあるブロックは、特定の人だけへのバリアフリーでなく、多くの人の利便性を改善するユニバーサルなデザインになっているといえます。

4.屋内外のさまざまな施工法に対応した製品化

誘導ブロックにはさまざまな材質や製法があり、路面の状況や施工条件などによって使い分けられています。コンクリートやセラミックは耐久性が高く、路面に埋め込んで敷設するのに適しています。タイルは褪色しにくく、下地がしっかりした場所に施工するのに適しています。アクリル樹脂のシートタイプは、平滑な場所に貼り付けるだけで施工できます。これらさまざまなタイプの誘導ブロックを製造しているメーカー各社の協力により、屋内外のほとんどの場面に対応した製品化が実現しました。

セラミック・タイル製品(株式会社LIXIL)

セラミック・タイル製品(株式会社LIXIL)

アクリル樹脂系シートタイプ製品(大光ルート産業株式会社)

アクリル樹脂系シートタイプ製品(大光ルート産業株式会社)

2種の材質を組み合わせた事例コンクリート製品(日本興業株式会社)/アクリル樹脂(株式会社キクテック)

2種の材質を組み合わせた事例
コンクリート製品(日本興業株式会社)/アクリル樹脂(株式会社キクテック)

5.統一感ある景観デザインと誘導効果を両立する「ルシダ®」ブランド

様々な検証を経て、これらの誘導ブロックは2018年に発売され、各社共通ブランド「ルシダ®」として提供されています。モダンなクールイエローと温もりあるウォームイエローの2色は、それぞれ景観イメージに合わせてセレクトでき、さらに、異なる材質が用意されているため、屋外から屋内まで統一した色調の誘導ブロックを設置できる利点があります。視認性と景観調和を兼ね備えた新しい誘導ブロック「ルシダ®」は、駅や公共施設、街中など、日本の各所を彩っています。

※施工イメージ

※施工イメージ

*関連サイト
・東京大学プレスリリース(2018年製品発表)
https://www.iqb.u-tokyo.ac.jp/iqb/wp-content/uploads/2017/12/pressrelease_20171222.pdf
・DICコラム:色彩を通じたDICの社会貢献
前編:色材メーカーとしての社会的責任 〜人に優しいカラーコミュニケーションを目指して〜
https://www.dic-global.com/ja/contents/column/06.html
後編:わたしたちの暮らしを守る色彩 〜身近なところにあるユニバーサルデザインカラー〜
https://www.dic-global.com/ja/contents/column/07.html
・NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構
https://cudo.jp/

*関連製品
・株式会社LIXIL
https://www.biz-lixil.com/product/tile/529/
・日本興業株式会社
https://www.nihon-kogyo.co.jp/product/environment/pavement/function/brailleblock.html
・大光ルート産業株式会社
https://www.t-route.com/business/product/lucida/
・株式会社キクテック
https://www.kictec.co.jp/case/guidway/

DICカラーデザインでは、産官学連携の取り組みや研究で培った知見を基に、カラーユニバーサルデザイン(CUD)を踏まえた色提案・監修を行っています。パッケージ、GUI、案内サイン、防災情報などさまざまな分野において、人々の暮らしの安全の確保や利便性の向上を図っています。CUDを取り入れたデザインに関する詳細は、こちらからお問い合わせください。