Top Creator’s Interview

【Top Creator’s Interview Vol.1】

「Digitized Nature:自然が自然のままアートになる」
猪子寿之 Inoko Toshiyuki (チームラボ 代表)

猪子寿之

2020年8月1日、埼玉県所沢市に図書館と美術館と博物館が融合する「角川武蔵野ミュージアム」が誕生し、その敷地内にある東所沢公園 武蔵野樹林パークにて、アート集団チームラボが常設展示「チームラボ どんぐりの森の呼応する生命」をオープンしました。

武蔵野の雑木林を代表するコナラなどの落葉広葉樹の森は、春から夏にかけては緑、秋から初冬にかけては紅葉の移ろいがあり、秋に熟するどんぐりの実は縄文時代から主要な食料でした。「Digitized Nature:自然が自然のままアートになる」というデジタルアートプロジェクトを行うチームラボは、この武蔵野のどんぐりの森を舞台に新たな作品を発表。コロナ禍によって世界中のアートプロジェクトが影響を受ける中、チームラボ代表の猪子寿之氏にお話を伺いました。

Interview Information

実 施 日2020年7月30日(木)
場   所東所沢公園内「武蔵野樹林パーク」
(運営者:公益財団法人角川文化振興財団)
展示作品名チームラボ どんぐりの森の呼応する生命
対 談 者猪子寿之氏/チームラボ 代表
大前絵理(周昕)/DICカラーデザイン株式会社
アジアカラートレンドブック』編集長

武蔵野樹林をインタラクティブに彩る光のアート空間

大前絵理(以下、大前): 今回のプロジェクトは、「角川武蔵野ミュージアム」とともに1〜2年かけてつくってきたとのことですが、隈研吾さんは1200トンの花こう岩を用いて、直線的で力強く、象徴的な建築を作られました。『チームラボ どんぐりの森の呼応する生命 』はオーガニックで、森の中から生まれてくる生命体という印象を受けました。最初からこのように計画されて考えたのでしょうか。また、オブジェの卵型はどんぐりをモチーフとしたものなのでしょうか。

猪子寿之氏(以下、猪子): 卵形はチームラボではよく使っています。卵形は有機的で自然な形ですが、不自然な形で立っています。立つことで生命感を感じられたらいいなということと、例えば広場に象徴的な彫刻が一つあるよりは、人々との関係性が強いような存在を表現したいという思いがありました。特にここは雑木林なので公園的な役割があると考えると、触ると起き上がってくる遊具のような、「群」によって「環境」になるような、人々が触って遊んだりできるような彫刻にしました。自然に溶け込む、「中心のない彫刻群」にしたかったのです。

卵形のオブジェ1

大前: 新しいパブリックアートの表現手法ですね。

猪子: 「中心」というのは何か権威的で20世紀的なものだと思います。ネットワーク型の社会は中心がないものなので、各人が「中心」となって自分の周りに情報を発信していく、新しい社会形態でもあると思います。それが、人々が向かうべき新しい社会像であると思います。

大前: 各人が触れたところが中心となって拡散していく、実体験ができるということですね。今のネット社会と、ある意味で情報の拡散の仕方が似ています。

猪子: 実際にこの卵形のオブジェを触るとそこから光が広がっていきます。このインタラクションは、今の社会のあるべき姿の実体験です。自分が触った場所が「中心」となって光が呼応していく、他の場所で触っても今度はそこが新たに「中心」となって光が連続していく。権威的な中心がある空間ではなく、「中心」のない「群」による環境をつくりたかったのです。

チームラボ どんぐりの森の呼応する生命1
チームラボ どんぐりの森の呼応する生命2

自立しつつも呼応する生命-液化された光の色

大前: 今回新たに開発された57色は、光の混色によって生まれる色なのでしょうか。先に色見本を決めて目指した色でしょうか。それとも偶然に生まれた色でしょうか。

猪子: 光の混色によってできる色の数が57色ですが、再現性のある色を理論的に作りました。再現性のあるものとして作れなかった色を作りたかった。どのようにすれば新しい色をつくれるかを考え、物理現象である色を光によって再現性のある形でつくることに注力しました。

大前: アートはそういうところがありますね。何か規範があってそれを目指すということではなく、インスピレーションそのものが作品になる。今までもチームラボは光や色をたくさん用いて様々な展示やイベントを行ってきていますが、今回の『チームラボ どんぐりの森の呼応する生命』が最も色数が多いのでしょうか。

猪子: そうですね。普通の色は57色もあると、色見本を並べても色の違いはわかりにくいと思いますが、今回のように複雑に反射や効果が加わった57色は完全に区別がつきます。

チームラボ どんぐりの森の呼応する生命1
チームラボ どんぐりの森の呼応する生命2

大前: 私たちも色の素材などを開発しているので大変興味があります。新しい色彩の理論になるのではないかと感じます。

猪子: 我々チームラボは、これを「液化した光の色」と呼んでいます。これらの色はどれも偶然に生まれる色ではなく、理論で再び表現できる完全に再現性のある色です。

大前: 2年前に拝見した九州御船山楽園プロジェクトは、1300年続く地元の聖なる山に溶け込んだ作品で、そこにある自然の岩、池、植物とテクノロジーが一体になった没入型体験がとても印象的でした。そのインスピレーションは、猪子さんが故郷の山で、風景や花のパターンを投影し続けて実験を繰り返した結果とのことでしたが、今回もそれが繋がった発展形なのでしょうか。

猪子: ここ所沢は、都市の中の雑木林として公園的な役割があると思います。人類が日本列島に住み始めた頃から、現在の東日本はどんぐりの森だったといわれています。縄文時代の遺跡から、どんぐりを食べて生活していたことがわかっています。この森は、ベットタウンとして都市化した現在も残っていることが面白いので、ぜひ多くの方に体験していただきたいです。

コロナ禍における変化への対応

大前: 少し話が変わりますが、世界ではオンラインによる仕事、交流、表現が加速し、デジタルコンテンツの発信も多様になりました。御社では総合的なテクノロジーとアートの集団として、エンターテインメント、デジタル技術を活かしたスマートフォン用アプリや非接触型のインタラクティブ自撮りカメラなど、時代の変化に対応したシステムを次々と開発されています。これらは戦略として取り組まれていたのでしょうか。

猪子: 同郷の友人とともにチームラボを立ち上げ、テクノロジーのプロ集団としてやってきました。共同創業者達がテクノロジー分野のソリューションをビジネスとしてやってきていたことが、たまたま今般のコロナ渦においても役に立ちました。チームラボが各国で開催を予定していたアートイベントの多くがストップしてしまっているコロナ渦においても、チームラボが生きていられるのは、共同創業者としてテクノロジー分野のビジネスを一途に担っている彼らのおかげです。僕は、アートの部分に特化して、これからも発信していきます。

Profile

チームラボ
アートコレクティブ。2001年から活動を開始。集団的創造によって、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索している国際的な学際的集団。アーティスト、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストから構成されている。
チームラボは、アートによって、自分と世界との関係と新たな認識を模索したいと思っている。人は、認識するために世界を切り分けて、境界のある独立したものとして捉えてしまう。その認識の境界、そして、自分と世界との間にある境界、時間の連続性に対する認知の境界などを超えることを模索している。全ては、長い長い時の、境界のない連続性の上に危うく奇跡的に存在する。
ニューヨーク、ロンドン、パリ、シンガポール、シリコンバレー、北京、台北、メルボルンなど世界各地で常設展およびアート展を開催。東京・お台場に《地図のないミュージアム》「チームラボボーダレス」を開館。2022年末まで東京・豊洲に《水に入るミュージアム》「チームラボプラネッツ」開催中。2019年11月に上海・黄浦濱江に新ミュージアム「teamLab Borderless Shanghai」を開館。マカオに「teamLab SuperNature Macao」を開館予定。11月8日まで九州・武雄温泉・御船山楽園にて「チームラボ かみさまがすまう森」開催中。
チームラボの作品は、ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館(シドニー)、南オーストラリア州立美術館(アデレード)、サンフランシスコ・アジア美術館(サンフランシスコ)、アジア・ソサエティ(ニューヨーク)、ボルサン・コンテンポラリー・アート・コレクション(イスタンブール)、ビクトリア国立美術館(メルボルン)、アモス・レックス(ヘルシンキ)に永久収蔵されている。

アジアカラートレンドブック

世界唯一のアジアにフォーカスしたトレンドブック

斬新なアジアの感性、消費者マインド、アート、伝統工芸と哲学、CMFトレンドを発信するクリエイティブ・インスピレーションブックを2008年より発行しています。
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