Top Creator’s Interview

【Top Creator’s Interview Vol.6】

Salone del Mobile.Milano
Japan Press PR
山本 幸 Yuki Yamamoto
pressmilano代表

Profile

山本 幸 Yuki yamamoto

Salone del Mobile.Milano Japan Press PR
pressmilano代表

20年近くミラノをベースにミラノサローネ国際家具見本市の日本PRを担当。同時に、日本企業のミラノサローネ出展に関するコンサルタントやPRも務め、サローネ情報を日本へ発信される、架け橋の役割を果たす。

www.milanosalone.com
www.pressmilano.com

Interview Information

対 談 者山本 幸 Yuki yamamoto
Salone del Mobile.Milano Japan Press PR・pressmilano代表
取 材 者周昕(大前絵理) Eri Omae
DICカラーデザイン 『アジアカラートレンドブック』編集長

周: 山本さまは、ミラノサローネのPRであると同時に、日本企業のサローネ出展をサポートし、サローネ情報を日本へ発信される、架け橋のような存在。コロナ禍の間、苦労されたことは?

山本: PRの仕事は、開催・出展をメディアへ告知し、発信してもらうことですが、コロナ渦での苦労は、やはり2020年に開催できなかったことです。延期のニュースが続いた果てに、未開催を告げるのが辛かったです。ミラノサローネ国際家具見本市(以下、ミラノサローネ)のPRとしても、出展企業のPRとしても、未開催による打撃は大きかったです。

しかし一方で、その「空白の時間」をチャンスと捉え、通常ゆとりを持って取り組めないサローネの重要人物(特に私のボス的存在、マルヴァ・グリフィン氏)のインタビューを企画いただいたり、インテリア・家具への関心が日本を含め世界中で高まったりと、貴重な機会を得たことはプラスでした。

サローネ自体も「元に戻る」のでなく、環境に優しい見本市を目指すという新しい見本市として生まれ変わりました。2021年の特別展「supersalone」は出展ブースを含め、使用された建材全てが再利用され、国際標準化機構(ISO)の温室効果ガス排出量に関する国際規格、ISO14064-1:2019を取得しました。

supersalone2021 の様子

supersalone2021 の様子
Courtesy Salone del Mobile.Milano ©️ Andrea Maiani
https://www.salonemilano.it/en

supersalone2021 の様子
サローネのインターナショナルプレス代表、マルヴァ・グリフィン氏と

Yuki Yamamoto with Marva Griffin @supersalone2021 サローネのインターナショナルプレス代表、マルヴァ・グリフィン氏と。
サローネサテリテの創始者・キュレーターでもあり、50年以上前にB&Bの前身B&Cの広報を務めて以来、イタリアのデザイン界を見守り、育ててきた「デザインの母」。

周: 2023年は世界が復活した年となりました。今年のミラノサローネは前年比15%増の来場者、海外の参加者も戻りました。山本さんのお立場から、どのように感じましたか?

ミラノサローネ2023
ミラノサローネ2023

ミラノサローネ2023 / Courtesy Salone del Mobile.Milano ©️Allessandro Russotti (会場入り口写真)
https://www.milanosalone.com/

山本: まだコロナ禍にあった2021年、ミラノサローネ特別展「supersalone」を開催することができ、マスクを着用しながらも各国から集まったPR仲間と再会でき、また、日本の編集部のほとんどが海外出張禁止だった中、フリーランスのジャーナリストの方たちがたくさん取材に来てくれ、とても感慨深い年でした。そして昨年の2022年は、ようやくコロナが落ち着き始めた6月に、通常のスタイルで開催できましたが、中国からの来場者がなく、戦争の勃発でロシア勢も影を潜め、日本の編集部からの取材も引き続きほぼゼロ状態でした。

今年2023年は、4年ぶりに通常の4月開催となった訳で、インテリア業界もようやくリズムを取り戻し、中国勢も一気にカムバック、日本の編集部の多くも4年ぶりに来場し感動の年となりました(あとは戦争が早く終わることを祈るのみ)。

そしてこの3年間は、2021年「supersalone」の際に弱冠38歳で代表に就任したマリア・ポッロ氏の存在無しに語れません。ミラノサローネの母体となるイタリア家具工業連盟(以下、FLA) 家具部門の代表で、家業ポッロ社のマーケティング・コミュニケーション・ディレクターと、アルタガンマ財団理事も兼任しながら3児の母、というスーパーウーマンですが、未来を見据えた彼女の鋭いビジョンや実行力には目を見張るものがあります。

就任当初よりサステナブルに力を入れ、2022年には国連グローバルコンパクト(UNGC)に加盟、出展社へのサステナブルガイドラインも発表、今年は持続可能なイベント管理のための国際規格、ISO20121を見本市としては世界で初めて取得しました。世界に誇れる環境に優しい見本市として、今後も認証取得の厳しい課題に継続して取り組むと表明したマリア・ポッロ代表指揮のもと、「何事も試してみないと分からない」と失敗を恐れず果敢に前進するミラノサローネは苦難を乗り越え、成功し続けると誰もが確信しています。

法被を羽織ったマリア・ポッロ代表

今年のミラノサローネ打ち上げパーティーで
法被を羽織ったマリア・ポッロ代表
Courtesy Salone del Mobile.Milano ©️GuidoStazzoni

Design with Nature

2022年:60周年記念事業の一環として建築家マリオ・クチネッラ氏とともに制作し、
循環型経済と再利用をテーマにしたインスタレーション「Design with Nature」。
Courtesy Salone del Mobile.Milano ©️Diego Ravier

イタリアの街をイメージした円形の会場レイアウト

2023年:一般的な碁盤の目のレイアウトを廃止し「イタリアの街をイメージした円形の会場レイアウト」に加え、
「会場の照明を全て落とす」という大胆な試みが話題となったエウロルーチェ会場で、今年も開催されたトークイベントの様子。
坂茂Shigeru Ban @TALK Event

周: 山本さまは今年特に力を入れたことは?

山本: 今年に限らないのですが、フオーリサローネもようやく活気を取り戻した今年、ミラノサローネとフオーリサローネの違いが曖昧に記事化されないよう、今年も記者の方たちに正しい認識の浸透へ協力をお願いしています。

ミラノサローネはイタリアの家具・インテリア会社がほとんど加盟している家具工業連盟( FLA ) を後ろ盾に運営され、フィエラミラノというロー市(ミラノの隣町)の巨大見本市会場で毎年開催される家具見本市です。出展品の規制に加え、出展の可否は主催者であるFLA Eventi社(連盟の子会社)が決定します。新規参入は非常に難しく、出展ホールやブース位置も周囲との調和を考慮して主催者が決定します。また、模倣品が見つかった場合は即刻退去になります。

週末は一般開放されますが、平日は純粋なビジネスの場で、イタリアの政府機関と連携して各国から送り込まれたバイヤーや、世界中から集まる業界関係者たちにサローネの品質とスムーズにビジネスできるB2Bの環境を保証します。狭き門ですが、出展が決定したら出展社には多くの来場者を保証しています。

一方、フオーリサローネは、当初はミラノサローネが閉催した後、市内にショールームを持つブランドが引き続き夜まで展示を続けたり、パーティーを開催したりする目的で始まりましたが、今ではミラノサローネ開催に合わせて、個人や企業・団体などが場所を借りて開催する「自由展示」と発展しました。合同展示場を除いては有名ブランドでない限り集客が難しいのが難点ですが、歴史的建造物など会場によっては世界観を演出できるため、企業PRを目的としたB2Cが主流のイベントです。

このように、「ミラノサローネ」と「フオーリサローネ」という全く異なるイベントが同時開催されるこの1週間が「ミラノデザインウィーク」である、という正しい認識と使い方の普及に日々、尽力しています。

周: 山本さまをはじめ、プロフェショナルな方々の努力で、カリモク、マルニ、リッツウェルなど日本企業の活躍が益々注目されるようになってきました。今年の日本企業の活躍について、どのように感じましたか?

山本: 私は開催から3〜4日間はミラノサローネ見本市会場のプレスオフィスに缶詰めになるため、会期の後半に展示を見て回ります。今年も各日本企業の素晴らしい出展を駆け足で見させていただき、どのブースもたくさんの来場者を迎え盛況だったことを嬉しく思っています。

今年注目された隔年開催見本市エウロルーチェにもAmbientec とSTUDIO ROW、2社が初出展し話題となりました。ミラノサローネの上層部やスタッフも、いつも日本という国に尊敬と信頼を持って出展企業を見てくれることを誇りに思います。

Ambientecが2023年にようやくエウロルーチェ出展を実現した様子 Ambientec @Euroluce2023  ph. Giuseppe De Francesco

Ambientecが2023年にようやくエウロルーチェ出展を実現した様子
Ambientec @Euroluce2023 ph. Giuseppe De Francesco

会場の照明が落とされた中に作品が美しく浮かび上がるSTUDIO ROWのブース©️Nacasa&Partners

会場の照明が落とされた中に作品が美しく浮かび上がるSTUDIO ROWのブース
©️Nacasa&Partners

周: 来年のサローネへ期待を寄せる企業も多い中、山本さまから、世界へ進出したい日本企業へのアドバイスは?

山本: 私はミラノサローネとフオーリサローネ、それぞれに出展する企業を長年見てきましたが、以前は「出展すること」が最終目的だった企業も、近年は「海外でのビジネス」の難しさに直面しながらも果敢に取り組む企業が増えてきたように感じます。少なくともミラノサローネの継続出展企業は、その「壁」を乗り越え、更なる成長に取り組む素晴らしい企業たちです。

前述したように、ミラノサローネは運営団体がお膳立てしてくれる見本市なので、ある程度のビジネス環境が保証されるものの、実際にビジネスを成立させることは更なる難関で、決して容易ではありません。語学力はもちろん、出展前の準備は製品開発やブース作りだけにとどまらず、ビジネスの目標をしっかり立て、準備して挑むことが大切です。1年に1回の見本市に365日の取り組みが必要で、片手間にはできません。

「サローネの常連」になってこそ、 顧客とも「サローネで会いましょう!」という合言葉のもと、信頼関係が築かれ、ビジネスが発展していくのです。

Editor’s postscript 取材後記

日本人でいながら、イタリアに住み、イタリア語を流暢に話し、日本とイタリアの両国の文化と感性を知り尽くす。毎年、ミラノサローネのPRオフィスに、山本さんの暖かい笑顔と丁寧な説明が日本からのメディア関係者を助けてくれる。

コロナ禍において、SNSでプレス向けにサローネ情報を随時発信しながら、日本企業のサローネ出展もサポート。2021年に就任したマリア・ポッロ代表のもと、復活を遂げたミラノサローネ。これからも日本のものづくりを世界に発信する架け橋として、山本さんの活躍が期待される。

周昕(大前絵理)
『アジアカラートレンドブック』編集長/クリエイティブディレクター
中国上海市出身。日本、中国を拠点に、地域文化、カラー&素材の研究に関する編著書、講演など多数。上海金澤工藝館アートディレクターも務め、グローバルブランドのCMF提案を数多く手がける。2008年『アジアカラートレンドブック』の創刊とともに、アジアのクリエイターを数多く取材し、千人以上を世界に紹介してきた。

アジアカラートレンドブック

Asia Color Trend Book

世界唯一のアジアにフォーカスしたトレンドブック

斬新なアジアの感性、消費者マインド、アート、伝統工芸と哲学、CMFトレンドを発信するクリエイティブ・インスピレーションブックを2008年より発行しています。
アジアカラートレンドブック