色を味方につけるビジネスカラーコラム

サステナブルデザインを考える
~サステナブルを支える素材~

サステナブルデザインを考える ~サステナブルを支える素材~

2015年9月、国連は2030年に向けてSDGs(Sustainable Development Goals)という持続可能な開発目標を掲げました。この声明によってSDGsの「S」、「Sustainable(サステナブル)」は、私たちが未来に向けて、持続可能な世界をつくるために避けて通ることができない開発キーワードとなりました。
開発思考・行為である「デザイン」においても、「サステナブル」は真正面から取り組むべき課題となりました。

1.理念としての「サステナブルデザイン」

「サステナブル」と「デザイン」を結びつけると、「色・形・素材」との結ぶつけたくなりますが、「サステナブルデザイン」はモノづくりの視座だけで完結することはできません。
SDGsでは、17の目標、169のターゲットが掲げられていますが、「サステナブル」とは、持続可能な社会づくりの理念なのです。まずはデザイン理念の視点でサステナブルを考えてみましょう。

19世紀の建築家ルイス・サリヴァンは「Form ever follows function.(形は常に機能に従う)」という言葉を残し、この考えは、モダンデザインを語る際に必ず登場する、20世紀初頭のドイツの美術・工芸学校「バウハウス」のデザイン理念「Form Follows Function.(形は機能に従う)」としても知られています。このフレーズを、色を主語に変えてなぞらえると、「Color Follows Emotion.(色彩は感性に従う)」ということが言えます。大量生産、大量消費という物質文明の発展過程の中で、感性的嗜好は多様化しました。「十人十色」の感性的嗜好性に応えるために色はデザインにおいて大きな役割を果たしてきました。そして、SDGsを標榜する21世紀になった今日、デザイン理念としてますます重要になってきているのが、素材、マテリアルというデザイン要素です。形や色のフレーズをなぞらえるならば、今後は「Material Follows Sustainability.(素材は持続可能性に従う)」といった傾向が強くなってくるのだろうと考えられます。

「サステナブル」と「デザイン」

2.経済システムとしての「サステナブル」

サステナブルな社会を実現するためのキーワードに「サーキュラーエコノミー CE/Circular Economy」があります。「サーキュラーエコノミー」とは、「原材料→製品→利用→廃棄物」といった従来型のリニアエコノミー(線型経済)でなく、「原材料→製品→利用→リサイクル→原材料→・・・」といった循環経済のことを指します。

その旗振り役となっているのが、2010年9月に設立された「エレン・マッカーサー財団」です。イギリスを本拠地とする同財団は2013年に、サーキュラーエコノミーを推進するためのプラットフォーム「CE100/Circular Economy 100」を立ち上げるなど、様々な企業、団体、大学などのナレッジ、連携を推し進めています。

サーキュラーエコノミー
出典:オランダ「A Circular Economy in the Netherlands by 2050 -Government-wide Program for a Circular Economy」(2016)より環境省作成
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/pdf/1_2.pdf

3.サーキュラーエコノミーの3原則

エレン・マッカーサー財団は、下記のような「サーキュラーエコノミーの3原則」を掲げています。

  • 廃棄や汚染を取り除く/Eliminate waste and pollution
    負の外部性を明らかにし、排除する設計にすることによってシステムの効率性を高める。
  • 製品と原材料を(高い価値を保ったまま)循環させつづける/Circulate products and materials (at their highest value)
    技術面、生物面の両方において製品や部品、素材を常に最大限に利用可能な範囲で循環させることで資源からの生産を最適化する。
  • 自然を再生する/Regenerate natural
    有限な資源ストックを制御し、再生可能な資源フローの中で収支を合わせることにより、自然資本を保存・増加させる。

(3原則の翻訳引用:IDEAsFOR GOODサイト https://ideasforgood.jp/glossary/circular-economy/

有限な資源ストックを制御し、再生可能な資源フローの中で収支を合わせることにより、自然資本を保存・増加させる。
同財団によれば、これらの原則は「デザイン」によってドライブされると記載されています。ここで用いられているデザインは「色・形・素材」という狭い意味合いでなく、「設計」といった広義での言葉の用いられ方ですが、サーキュラーエコノミーとデザインの関係深さを表しているとも言えるでしょう。
この3原則は、エレン・マッカーサー財団が公開している、企業の循環性測定ツール「サーキュリティクス/Circulytics」においても重要な評価視点にもなっています。

4.素材開発におけるサステナブルとは

一言で素材開発と言っても、素材は様々です。繊維、金属、プラスチック、エストラマー(ゴム)、紙、自然素材(木、竹、土、石、革、羽毛など)、セラミックス、ガラス…。原料、材料といった方が適当な場合もありますが、いずれにしても、素材は多種多様で、それぞれ加工ノウハウが異なります。また、素材は製品となって販売されるのが多くの場合ですが、用途によって素材に必要とされる要件は異なります。例えば、生地と言っても、服地に求められる耐久性と自動車のシート地に求められる耐久性が異なることは誰もが想像できるでしょう。このように用途によって求められるハードルは異なりますが、機能的な視点には共通性があります。

サステナブル素材の特性

サステナブルデザイン、サステナブル素材開発のために、企業では様々な試行錯誤が行われています。その中から、ポピュラーな素材特性をご紹介します。

サステナブル素材の特性
  • バイオマス素材

    バイオマスは、「バイオ/bio」と「マス/mass」の概念からなる言葉で、生物由来の資源の総称です。代表的なものとしては、木材、草木、紙、生ごみ、家畜の排泄物などが挙げられます。これらも、焼却によりCO2が放出されますが、もともとは大気中から吸収されたCO2なので、トータルとして大気中のCO2を増加させない特性があります。この特性を「カーボンニュートラル(二酸化炭素排出量実質ゼロ)」と呼び、サステナブルを考える上で、重要視されています。

  • 生分解性素材

    生分解性素材とは、微生物などの生物の作用により分解される性質の素材を指します。「土に還る素材」というと分かりやすいと思います。綿やウールといった天然素材がイメージしやすいでしょうが、生分解性のプラスチックの研究、開発も進められています。

  • リサイクル素材

    広く知られているリサイクル素材は、再生紙やアルミ、ペットボトルなどがあります。今日では、石灰石を主原料にしたリサイクル素材も開発されています。素材のリサイクル性は長年取り組まれている施策ですが、リサイクル素材はリサイクルが可能な素材ということなので、リサイクル率を上げることが大切なポイントです。

サステナブル素材の視点

サステブルな素材といった場合、前項のような素材特性といった視点だけでなく、別の角度からサステナブル性を捉えることもできます。

  • 長期間使用する

    服でも、道具でも、長く利用することで廃棄量が減少します。耐用年数が長いことがサステナブルにつながります。また、穴が開いた服にアップリケを施して使い続けるといった昔ながらの方法で長期間使用することも一つです。

  • 再利用(リユース)する

    リユース市場が拡大しています。『リサイクル通信』が2021年9月に発表したリユース市場規模推計では、2020年の市場規模は、2.5%増の2.4兆円となり、2025年推計は3.5兆円としています。CtoCという市場が拡大していることで、複数人で長く使用するといったこともサステナブルといえる視点です。

  • アップサイクル

    「アップサイクル」とは、不要になったものをゴミにするのでなく、新たな需要を満たすものをして再生するサイクルを指します。着られなくなってしまった和服を洋服の生地として再生したり、廃棄されてきたフードロス材料を、新たな食品に再生したりする試みも多くなっています。身近なところで言えば、牛乳パッケージを筒状に切って、きれいな包装紙でくるんで筆記用具入れにするといった家庭的な知恵もアップサイクルと言えるでしょう。

  • シェアリング

    消費は「所有するためでなく、利用するため」といった考え方が広がっています。月に何度しか利用しない自家用車、空き家など、遊休資産は少なくありません。(一社)シェアリングエコノミー協会と情報通信総合研究所が実施し、2022年1月に発表した調査では、2021年度のシェアリングエコノミーの市場規模は2兆4,198億円で、2030年度には、14兆2,799億円に急拡大すると予測されています。シェアリングの輪の広がりもサステナブルな社会づくりにつながる視点と言えるでしょう。

  • エシカル、フェアトレード

    「エシカル/Ethical」は「倫理的な」の意味。法律や規則といったアプローチでなく、自らの良心に基づいた行動を促すキーワードです。価格の低さだけでなく、たとえ価格が高くても、商品の「サステナブルさ」に価値を認めて購入する消費を「エシカル消費」と呼ぶこともあります。
    また、派生するキーワードに「フェアトレード」があります。最終商品だけで価値判断をするのでなく、その商品が生まれるプロセスを重んじるための視点です。代表的な例としては、児童労働や差別の上に開発されている商品は認めないといった消費意識が挙げられます。

  • コラボレーション

    一つの企業ができることには限りがあります。個々の企業はそれぞれ得意分野でビジネスを展開しています。しかし、企業同士が持ち味を生かしたコラボレーションをすることで、サステナブルな展開の可能性は広がります。

これらはサステナブルを推進する視点の一例ではありますが、例えば「長時間使用するためにデザインができることは?」と思考することが、デザインを掘り下げる入口になります。

5.LCA(ライフサイクルアセスメント)という評価手法

「サーキュラーエコノミー」の実現するために、「ライフサイクルアセスメント/Life Cycle Assessment(LCA)」という環境負荷量評価手法が注目されています。「ライフサイクル/Life Cycle」とは、製品やサービスの資源発掘から原料生産、生産、流通、消費、処理・処分にいたる一連の周期で、「アセスメント/Assessment」は、客観的評価を意味します。要は、生産された商品自体がサステナブルであっても、資源発掘や原料生産が非サステナブルであっては本質的な目的は達成できていないということを問うています。
例えば、(独)国立環境研究所のCO2排出量の例で、LCAの活用を解説してみましょう。
下図を見ると、製品の資源の発掘から、処理・処分に至るまで、どの工程でもCO2は排出されています。しかし、それぞれの工程で排出量は異なります。こうした定量的な違いを把握することで、より環境負荷が少ない製品ライフサイクルづくりが可能になります。

図1:製品のライフサイクル

図1:製品のライフサイクル

図2:製品に関連するCO2排出量の比較(例)

図2:製品に関連するCO2排出量の比較(例)
(左:製造工程での排出、右:ライフサイクルでの排出)

出典:国立研究開発法人国立環境研究所「循環・廃棄物のまめ知識」
https://www-cycle.nies.go.jp/magazine/mame/20070702.htm

6.循環型デザインを振興するために

製品のライフサイクルを循環させるためには、先に述べたように「素材」が重要なデザイン要素になります。資源を採掘する段階、原料を生産する段階、素材を使って製品化する段階、製品としての寿命を終えた後の段階、その後、再利用に向かう段階のすべての工程で「素材」が深く関わってきます。そうした課題を念頭に、様々な企業が日々奮闘をしています。

リサイクル素材の項でも言及しましたが、「循環できる素材開発」が重要なのはもちろんですが、リサイクル率を上げることがキーポイントとなります。多くの商品が生活者にわたって利用されることを考えると、生活者の「循環させる意識」を高めることができるデザインも重要なのだと思います。
また、サステナブルに対して、デザインで生活者を惹き付けることも大切です。サステナブルという機能性が避けて通れないものだとしても、感性的な魅力が不問というわけではありません。機能性が同等である場合、意匠的な魅力がデザインの成否を分けることになります。

当社は、世界的なデザインの祭典「ミラノサローネ」をはじめ、2021年から日本で開始されるようになった「サステナブルマテリアル展」や「サステナブルファッションEXPO」など、モノづくりに結びつきの深い展示会・イベントを取材し、サステナブルマテリアルの開発動向を継続的に分析しています。こうした調査活動を通して、『サステナブルマテリアルレポート』(2000年12月/音声解説付PPT形式)、『サステナブルマテリアルレポート2022(日本編)』(2022年6月/PDF形式)といった商品を開発し、サステナブルデザインの振興に努めています。